東京高等裁判所 平成6年(行ケ)79号 判決 1995年3月23日
京都市南区吉祥院中島町29番地
原告
株式会社ワコール
同代表者代表取締役
塚本能交
同訴訟代理人弁理士
浅村晧
同
小池恒明
同
緒方園子
同
岩井秀生
アメリカ合衆国 55066 ミネソタ州 レッド ウィング メインストリート 314 リバーフロントセンター
被告
レッド ウイング シューカンパニー インコーポレイテッド
同代表者
ジョセフ ピー ゴッジン
同訴訟代理人弁護士
宇井正一
同訴訟代理人弁理士
勝部哲雄
同輔佐人弁理士
田島壽
主文
1 特許庁が昭和60年審判第11792号事件について平成6年2月17日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文同旨
2 被告
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、別紙1に表示するとおり、「WING」の欧文字と「ウイング」の片仮名文字を上下二段に併記してなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前)別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」とする商標登録第791179号(以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、被告は、昭和60年6月14日本件商標の一部登録取消審判を請求(以下「本件審判請求」という。)し、同年7月17日その予告登録がされ、昭和60年審判第11792号事件として審理された結果、平成6年2月17日「登録第791179号商標の指定商品中「洋服、コート、和服、溶接マスク、防毒マスク、防じんマスク、防火被服、帽子、ナイトキャップ、ずきん、ヘルメット、すげがさ、頭から冠る防虫網、布製身回品、寝具類」についてはその登録は、取り消す。審判費用は、被請求人の負担とする。」旨の審決があり、その謄本は同年3月16日原告に送達された。
2 審決の理由の要点
(1) 本件商標の構成、指定商品は、前項記載のとおりである。
(2) 請求人(被告)は、次のとおり主張する。
本件商標は、商標権者である被請求人(原告)によって、商品「洋服、コート、和服、溶接マスク、防毒マスク、防じんマスク、防火被服、帽子、ナイトキャップ、ずきん、ヘルメット、すげがさ、頭から冠る防虫網、布製身回品、寝具類」について、日本国内で継続して3年以上使用されていないし、本件商標の商標権には専用使用権、通常使用権も登録されていないから、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により、上記商品につき取り消されるべきである。
(3) 被請求人(原告)は、本件商標を本件審判請求の登録前3年以内に、取消請求に係る商品である女性用コートジャケット、ズボン、ワンピースドレス、ナイトキャップ、クッション、タオル等に使用している旨主張する。
(4)<1> よって按ずるに、登録商標の使用事実の証明は、新聞、雑誌等への広告の事実、取引の際通常使用される納品伝票、仕入伝票等の取引書類の提示その他登録商標が実際に使用されていることが認められる写真、カタログ等の客観的に使用の事実が認め得る資料によってなされるべきである。
<2> かかる観点より、被請求人(原告)の提出した書証をみるに、乙第2号証(以下、本項に摘示の書証番号は、審判手続の書証番号による。)は、企業案内の一部写しであって、その中には「ハウスウェア」、「子供アウターウェア」等の商品が掲載されているから、被請求人が下着、ねまき類以外の衣服も取り扱っていることは認められるが、その作成年月日が不明のため、具体的時期は明らかでない。
乙第3号証の「コートジャケット」及び乙第5号証の「ナイトキャップ」の写真には、それぞれ「Wing」の文字及び四角で囲った「ウィング」の文字を表した織りネームがみられ、乙第4号証の「ワンピースドレス」の写真にも上記の織りネームのほか、「WING」の文字を表した織りネームがみられるから、被請求人は本件商標をその指定商品に使用していたものといえるが、これらの写真の撮影年月日はいずれも昭和60年10月22日であって、本件審判請求の登録日以後に撮影された写真であるから、これらの写真により前記登録日前3年以内の本件商標の使用の事実を証明し得たものということはできない。また、乙第6号証の「タオル」、及び乙第7号証の「クッション」に示された「WING SHE’S」の文字は、本件商標の「WING」とは別個のものと認められ、これらの写真の撮影年月日がいずれも昭和60年10月22日であることと併せ、本件商標の使用の事実を証明し得ない。
そして、乙第8号証は、被請求人のウィング事業部長の証明書であって、その中には、本件商標が昭和50年から今日に至るまで女性用コートジャケット、ワンピース等に継続して使用されてきたこと、乙第3号証ないし乙第7号証は昭和59年秋冬物及び昭和60年春物、秋物商品として、展示、販売されてきた旨の記載があるが、当該証明書においても前記登録日前3年以内の使用に関する客観的な証拠となり得る資料の裏付けは存しない。
また、乙第9号証ないし乙第10号証は、被請求人の主張に沿う内容の証明書であるが、いずれも被請求人の求めに応じて被請求人が予め用意した書面に証明したものと認められ、これにより本件商標を前記登録日前3年以内に女性用コートジャケット、ワンピース等の商品に使用していたことを客観的に証明し得たとはいえない。
<3> したがって、被請求人の提出に係る証拠によっては、被請求人が本件商標を本件審判請求の登録日前3年以内に日本国内において、その指定商品中、取消請求に係る前記商品について使用していたものと認めることができない。
(5) よって、本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により、その指定商品中「洋服、コート、和服、溶接マスク、防毒マスク、防じんマスク、防火被服、帽子、ナイトキャップ、ずきん、ヘルメット、すげがさ、頭から冠る防虫網、布製身回品、寝具類」について、登録が取り消されるべきである。
3 審決を取り消すべき理由
原告は、本件審判請求の登録の日である昭和60年7月17日以前3年以内に日本国内において、以下のとおり、本件商標を本件審判請求の対象である指定商品について使用していたから、審決は、違法として取り消されるべきである。
(1) 原告は、「冬ものウィングナイトウェアカタログ」(甲第8号証)の作成された昭和59年10月ころ同カタログ記載の「ワンピースドレス」に本件商標を付して本件商標を使用した。
この行為は、平成3年法律第65号による改正前の商標法(以下「改正前商標法」という。)2条3項1号の「商品に標章を附する行為」に該当する。
(2) 原告は、昭和57年12月24日「冬ものウィングナイトウェアカタログ」(甲第5号証)に記載された商品番号EP4110の「ズボン」を訴外ジャスコ大和郡山店に、同年11月8日同カタログに記載された商品番号EP4106の「スカート」を訴外ユニー株式会社カガ店に、同年11月24日同カタログに記載された商品番号EN2413の「ジャケット」を訴外ユニー株式会社オオタガワ店に、同年11月8日同カタログに記載された商品番号EN1112の「ジャケット」を訴外ユニー株式会社豊橋店にそれぞれ譲渡し、引き渡した。
これらの商品には、いずれも本件商標が付されており、この行為は、改正前商標法2条3項2号の「商品に標章を附したものを譲渡し引き渡し」た行為に該当する。
(3) 原告は、昭和59年10月1日訴外太平印刷株式会社から「冬ものウィングナイトウェアカタログ」(甲第8号証)の納品を受け、そのころ同カタログを頒布したが、同カタログの下方の縁部分に本件商標が表示されており、これは「定価表」あるいは「取引書類」に該当する。
その他にも、原告は、昭和57年冬(甲第5号証)、昭和58年冬(同第13号証)、昭和59年春(同第14号証)、同年夏(同第15号証)、同年秋(同第16号証)、昭和60年夏(同第17号証)、同年秋(同第18号証)に各カタログを作成、頒布したが、これらカタログは、その中に商品として「ジャケット、ズボン、スカート、上着」等が記載され、それぞれの年度の各季節に先立って印刷作成され、取引先のスーパーを主要対象として配付されたものであり、これらのカタログにもその下方の縁部分に本件商標が表示されている。
この行為は、改正前商標法2条3項3号の「商品に関する定価表又は取引書類に標章を附して頒布する行為」に該当する。
(4) 原告は、これらのカタログ中の商品を多数購入した顧客に対し、サービス品として提供し、あるいはそれのみを欲する顧客には販売するため、ナイトキャップ(甲第2号証の4)を製造し、本件審判請求の前記登録日前3年以内に取引先に譲渡し、引き渡した。
ナイトキャップの内側には、本件商標が付されており、この行為は、改正前商標法2条3項2号の「商品に標章を附したものを譲渡し引き渡し」た行為に該当する。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1、2項の事実は認める。
2 同3項の審決の取消事由は争う。
(1) 同項(1)の事実は不知。
仮に、原告が同カタログ記載の「ワンピースドレス」に本件商標を付したとしても、その行為は「商品に標章を附する行為」に該当しない。
当該「ワンピースドレス」は、ナイトウェアであって、取消請求に係る商品である「洋服 コート」に含まれない。「ナイトウェア」とは、「婦人、子供用の寝るときや寝る前のくつろいだ時間に着る服装」、あるいは「夜着・寝巻の総称」と定義されており、「洋服 コート」には該当しない。そもそも「ワンピースドレス」とは‘one-piece dresse’すなわち「見頃とスカートが分かれていない衣服」をいうが、ナイトウェアであってもそのような衣服はあり得るのであって、単に「ワンピースドレス」という用語のみをもって、これが一般にいう「洋服」であるとすることはできない。
(2) 同項(2)の事実は不知。
仮に、原告がこれら「ズボン」「スカート」「ジャケット」の商品に本件商標を付したとしても、その行為は「商品に標章を附したものを譲渡し引き渡し」た行為に該当しない。
同カタログに記載された商品は、そのカタログの表題からしてナイトウェアであり、その掲載商品のほとんどが一見してナイトウェアに該当するものである。「ナイトウェア」には、「ねまき類」の意味のみがあり、商標法における「ズボン」「スカート」「ジャケット」を含む「洋服」の意味はない。
商品番号EP4110は、物品受領書には「ウィングパジャマ」と表示されてり、「パジャマ」は「主として寝巻用に用いられる上着とズボンからなる衣服」(服飾辞典)であることから、当該商品は、「洋服」に属する「ズボン」とはいえない。
商品番号EP4106は、納品書には「スムースパジャマスカート」と表示されており、「パジャマ」の表示がある点で、当該商品は、「ねまき類」に該当する。
商品番号EN2413は、納品書には「オモテサキゾメウラパイルシ」と表示されているのみで、これでは当該商品が「ジャケット」であるか否か不明であるが、仮にジャケットであるとしても、「ジャケット」とは本来単に「上っ張り」の意味であり、直ちに「洋服」を意味するものではない。例えば、婦人用のゆったりとした部屋着で、特に化粧をするときに用いられる長袖の上着は「ドレッシング・ジャケット」(服飾辞典)と称されるのであり、当該商品のカタログ上の「ジャケット」は、このドレッシング・ジャケットを意味するものと考えられる。
商品番号EN1112は、納品書には「ネグリジャケット」と表示されているが、これは「ネグリジェ」と「ジャケット」との合成語と推測される。ここでも、「ジャケット」とは前記「ドレッシング・ジャケット」をいうと解すべきであって、当該商品は、「ネグリジェ」と同様に「ねまき類」に属する。
(3) 同項(3)の事実は不知。
仮に、原告が同カタログを頒布したとしても、その行為は「商品に関する定価表又は取引書類に標章を附して頒布する行為」に該当しない。
昭和59年の「冬ものウィングナイトウェアカタログ」に記載された商品番号EN1132及びEN1892の商品は、前記「ワンピースドレス」について述べたのと同じ理由で、取消請求に係る商品のいずれにも含まれない。なお、商品番号EN1132の商品は、価格表示の下に「ジャケット」と記載されているが、これはカタログ写真についてズボンを除く上着のみの価格であることを示すためのものであり、同商品は、前記「ドレッシング・ジャケット」に該当し、ナイトウェアとして着用するものにすぎない。
その他の原告主張のカタログも、すべてナイトウェアを表示するものであって、「洋服 コート」のグループに属する商品の表示はない。
(4) 同項(4)の事実は不知。
原告は、本件審判請求の登録日前3年以内に当該ナイトキャップを譲渡し、引き渡した証拠を何ら提出しないが、仮に、そのようなナイトキャップを顧客に無償で提供したとしても、そのような行為は、商標法上の商品の譲渡、引渡しに該当しない。
第4 証拠関係
本件記録中の証拠目録の記載を引用する。
理由
第1
1 請求の原因1項(特許庁における手続の経緯)、同2項(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、同3項(審決を取り消すべき理由)について検討する。
(1) 成立に争いのない甲第4号証、同第5号証、証人山本喜久雄の証言により成立の認められる甲第6号証の1ないし4、同証人の証言によれば、原告は、ファンデーション・ランジェリー・ナイトウェア等を製造販売している株式会社であって、ウィング事業部では、これらのうちウィングブランドと称する商品を扱い、主としてスーパー等の量販店に販売していること、原告ウィング事業部は、昭和57年12月24日原告の「冬ものウィングナイトウェアカタログ1982」に記載された商品番号EP4110の「ズボン」を訴外ジャスコ大和郡山店に、同年11月10日同記載の商品番号EP4106の「スカート」を訴外ユニー株式会社カガ店に、同月24日同記載の商品番号EN2413の「ジャケット」を訴外ユニー株式会社オオタガワ店に、同月10日同記載の商品番号EN1112の「ジャケット」を訴外ユニー株式会社豊橋店にそれぞれ譲渡し、引き渡したこと、これらの商品のうち、ズボンとスカートについてはその内側に、ジャケットについてはその襟とポケットに、それぞれウィングブランドを表す、上段に「Wing」の欧文字と下段に「ウィング」の片仮名文字を小さく四角枠で囲った標章(弁論の全趣旨によりウィングブランド商品に付されていた標章の写真であると認められる甲第2号証の2の3及び同号証の3の2に撮影されているもの。別紙2参照)が縫い付けられていたことが認められる。
(2) 本件商標と前記(1)の商品に付された標章とを対比すると、前者は、「WING」の欧文字と「ウィング」の片仮名文字とを上下二段に併記してなるのに対し、後者は、上段に「Wing」の欧文字と下段に「ウィング」の片仮名文字を小さく四角枠で囲って表した標章であって、欧文字のうち「ing」の部分が小文字となっている点及び「ウィング」の片仮名文字が欧文字より小さく表され、かっ四角枠で囲われている点で前者と相違する。しかしながら、後者の標章を称呼するときは「ウィング」と称呼し、これを観念するときは「翼」を意味するものと理解するから、称呼、観念において同一であり、かつその外観も極めて類似しているので、前記(1)の商品の取引者、需要者は、後者の標章を本件商標を使用しているものと認識すると認められるから、原告は、前記商品に本件商標を付して使用したものというべきである。
(3) そこで、前記(1)の商品が本件商標の指定商品のうち、本件審判請求の対象である商品に該当するか否かについて、検討する。
被告は、前記(1)の「冬ものウィングナイトウェアカタログ」に記載された商品は、そのカタログの表題からしてナイトウェアであり、その掲載商品のほとんどが一見してナイトウェアに該当するものであって、「ナイトウェア」には、「ねまき類」の意味のみがあり、商標法における「ズボン」「スカート」「ジャケット」を含む「洋服」の意味はない旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第8、第9号証、証人山本喜久雄の証言によれば、衣料、服飾の業界では、1980年代ころから漸次客の好みも多様化し、多様化した商品から好みの商品を選択し、好みの用途に使用する時代となり、原告においても、部屋着と街着の区別をはっきりさせず、ナイトウェアとしても着られるが、同時に家の中でくつろいだ時に部屋着として着たり、そのまま散歩や買物等の外出着としても使用できるといったものを製造し、そのような用途に用い得る商品として宣伝をしていること、また、このためにはいろいろな組合せが可能で、組合せによって性質を変えて着ることができるように配慮をしてデザインしていることが認められ、この事実からすると、カタログの表題が「冬物…ナイトウェァカタログ」となっているからといって、そこに掲載された商品が「ねまき類」としての意味しかないとすることはできず、前記(1)の商品は、商標法施行令別表第17類にいう「洋服」を含んでいるというべきである。
次に、被告は、商品番号EP4110は、物品受領書には「ウィングパジャマ」と表示されてり、「パジャマ」は「主として寝巻用に用いられる上着とズボンからなる衣服」であることから、当該商品は、「洋服」に属する「ズボン」とはいえない旨主張し、前記甲第6号証の1によれば、物品受領書の品名欄に「ウィングパジャマ」と記載されていることが認められる。しかしながら、前記証人の証言によれば、物品受領書の品名の表示は、取引先において、その店舗における売上区分等の分類に都合のよい名称を記入することがあり、原告としては、商品番号で特定されているので、品名については取引先の記載に従っていることが認められ、前記甲第5号証によれば、前記カタログには上記商品は「ズボン」と記載されていること、前示認定のように同カタログ記載の商品が部屋着やちょっとした外出着として使用されることが予定されていることも併せ考えると、上記記載があるからといって、当該商品が「ズボン」であるとの認定を覆すことはできない。
次に、被告は、商品番号EP4106は、納品書には「スムースパジャマスカート」と表示されており、「パジャマ」の表示がある点で、当該商品は、「ねまき類」に該当する旨主張するところ、前記甲第6号証の2によれば、納品書の商品名欄に「スムースパジャスカート」と記載されていることは認められる。しかしながら、「パジャスカート」が「パジャマスカート」の意味であるとしても、前記証人の証言によれば、原告は、納品書の商品名についても前同様に取引先の記載に従っていることが認められるから、上記判示と同様に、これをもって当該商品が「スカート」であるとの認定を覆すことはできない。
次に、被告は、商品番号EN2413は、納品書には「オモテサキゾメウラパイルシ」と表示されているのみで、これでは当該商品が「ジャケット」であるか否か不明であるが、さらに、「ジャケット」とは本来単に「上っ張り」の意味であり、直ちに「洋服」を意味するものではなく、例えば、婦人用で化粧をするときに用いられる長袖の上着は「ドレッシング・ジャケット」と称され、当該商品のカタログ上の「ジャケット」は、このドレッシング・ジャケットを意味するものと考えられる旨主張するところ、前記甲第6号証の3によれば、納品書の商品名欄に「オモテサキゾメウラパイルシ」と記載されていることが認められる。しかしながら、上記記載はその記載内容からして商品の品質、構成を表示したにすぎないと認められ、商品自体は商品番号で特定されており、上記認定を覆すものではない。また、「ジャケット」が「上っ張り」の意味を持つとしても、「上っ張り」が「洋服」に含まれないということはできないし、被告のいうように、この商品が女性が化粧をするときに用いる「ドレッシング・ジャケット」を意味すると認めるに足りる証拠もない。
次に、被告は、商品番号EN1112は、納品書には「ネグリジャケット」と表示されているが、これは「ネグリジェ」と「ジャケット」との合成語と推測され、ここでも、「ジャケット」とは前記「ドレッシング・ジャケット」をいうと解すべきであって、当該商品は、「ネグリジェ」と同様に「ねまき類」に属する旨主張するところ、前記甲第6号証の4によれば、納品書の商品名欄には「モシキルトネグリジャケット」と記載されていることが認められる。しかしながら、上記判示と同様に、納品書の商品名に「ネグリジェ」と「ジャケット」の合成語と捉えられる「ネグリジャケット」の記載があるからといって、当該商品が「ジャケット」であるとの認定を覆すことはできないし、これが「ドレッシング・ジャケット」であると認めることもできない。
(4) そうすると、原告は、昭和57年11月10日から同年12月24日の間に、本件商標に係る指定商品のうち、本件審判請求の対象である「洋服」に含まれる「ズボン」「スカート」「ジャケット」について、商品に本件商標を付したものを譲渡し、引き渡したものということができ、この行為は、改正前商標法2条3項2号に該当するということができる。
(5) 以上によれば、同項(1)、(3)、(4)の取消事由について判断するまでもなく、本件商標は、本件審判請求の予告登録前3年以内に商標権者により日本国内において指定商品中、取消請求に係る商品に使用されていたことになり本件商標の登録は、商標法50条1項の規定により取り消すべきであるとした審決の判断は誤りであって、取り消すべきである。
第2 よって、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担及び附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、152条2項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 田中信義)
(別紙1)
本件商標
<省略>
(別紙2)
<省略>